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仕事中にケガをした場合、労災保険による補償があることは、多くの社長さんもご存知の通りです。
病気をした場合についても、労災保険がカバーしてくれる場合があります。
もちろん、ケガ、病気、いずれの場合にも「業務上災害」であると認められなければなりませんが。
労働災害によって生じた従業員の損失について、最終的に労災保険がフォローしてくれるのは社長さんとしても心強い限りでしょう。
もっとも、労災保険がすべてをカバーしてくれるわけではありません。
確かにケガや病気の治療費は労災でカバーしてくれます。
また、休業した際の従業員の収入の80%(60%は休業補償給付、20%は休業特別支給金という名目)までは補償してくれます。
ただ、業務災害としてのケガや病気について、会社側に責任がある場合には、労災でカバーできない部分について、さらに会社がカバーしなければならないのです。
なぜなら、会社などの事業主は、従業員に対して、「安全配慮義務」を負うからです。
労働契約法には、「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」という規定があります(5条)。
平たく言うと、業務にあたる従業員が死亡したり、ケガや病気をしたりしないように事業主は配慮しなければならないということです。
これが安全配慮義務です。
危険を伴う業務を担当してもらう場合には安全対策をばっちりしなければなりません。
業務の危険度に応じて、設備や仕組みを設けることや、研修などの安全教育も必要になるでしょう。
こうした配慮を怠ったことで従業員が亡くなったり大けがを負った場合、会社は安全配慮義務違反として責任を負わされます。
一見、危険とは思われないような事務仕事であっても、安全配慮義務違反を問われることがあります。
異常な長時間労働を放置して精神障害を負わせたような場合も、安全配慮義務違反になります。
もちろん、業務上必要もないのに、危険なことをさせてはいけません。
会社に安全配慮義務違反が認められた場合、会社は、労災ではカバーされていない領域について賠償義務を負います。
すでに述べたように、休業中の給与は60%が労災の休業補償給付でカバーされますが、残りの40%を会社が支払わなければなりません。
この点については異論がありそうです。
休業損害については、60%が休業補償給付、20%が休業特別支給金、合計80%が労災でカバーされるので、会社の負担は20%にとどまるのではないかと。
一見、その通りと思えますが、休業特別支給金にあたる20%分については会社の負担は免除されないとされています。
したがって、会社の負担は20%ではなく、40%になります。
従業員を保護するために、会社の責任が重く設定されているのです。
また、業務上災害の際には、従業員から慰謝料を請求される可能性がありますが、これも労災ではカバーされません。
死亡の場合、数千万円の慰謝料が遺族から請求される可能性があります。
重い障害が残った場合も、多額の賠償を負います。
これらも会社の負担になるのです。
また、労災の中には、年金方式の給付もあります。
年金方式の給付については、一気に支払われるのではなく、定額が長期にわたって支払われます。
年金方式の給の場合、すでに従業員や遺族が受け取った分については会社の賠償責任から控除されます。
しかし、まだ受け取っていない将来の分については、年金としての給付を受け取ることが確実であっても、従業員や遺族は、会社にも賠償請求できることになっています。
労災分と会社への請求と、二重に補填を受けることができるのです。
安全配慮義務違反があった場合の責任の大きさを考えると、安全対策というのはとても大切ですね。
余談ですが、最近、ある会社で、素手で便器を掃除するという研修が話題になりました。
そういう研修はブラック企業なのか、それとも、心の教育として一理あるのかについては、様々な議論があることでしょう。
ただ、そういう議論を棚上げしても、安全配慮義務という点からすると、リスクがかなり大きいと思います。
潔癖症の従業員であればうつ病に罹患するかもしれません。
掃除をする従業員の手に残っている小さな傷から感染し感染症になる可能性があります。
素手で便器を触った従業員の手の消毒が不徹底なため、ドアノブや会社の備品などを通じて、他の従業員の多数が食中毒になるリスクもあります。
安全配慮義務を軽くみてはいけません。
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